「経験から学ぶ力」

「リーダーシップでいちばん大切なこと」「ご機嫌な職場」の著者である酒井穣さんがブログで紹介されていた本。
さっそく買って読んでみたが、酒井さんの本もそうだし、酒井さんの紹介される本はいつもそうなのだが、本当に考えさせられることが多い。

人は経験を通して成長する、ということについて異を唱える人はいないであろうが、この本の指摘する通り、70:20:10の法則通り、人の成長を決定づける要素として70%が経験を通してだとしたら、経験がいかに重要か、ということがよく分かる(20%は「他者の観察・アドバイス」、10%は「読書、研修」)。
限られた人生の中で、どれだけ経験するチャンスをつかみ、それを通してどれだけ学べるなが人の成長を決めるのだろう。

しかし、経験さえすれば成長する訳ではない。同じ経験を積んでも、成長する人と成長しない人がいるとしたら、人によって「経験から学ぶ力」が違うから、ということになるのは非常によく分かる話だ。

この本は「経験から学ぶ力」に焦点を当て、見事に分かりやすくフレームワーク化している。
それは本当に腹に落ちる説得力があるもので、「頑張ってるけど前に進めない、成長しているように思えない・・・」と感じる時に自分に何が足りないのか、よく分かるようなものになっている。


「経験から学ぶ力」のフレームワークは下記のようなもの。
「経験から学ぶ力」を構成する要素として次の3つを挙げている。
■ストレッチ
■リフレクション
■ エンジョイメント

そしてこの3要素を持続させる原動力として次の2要素を指摘している。
■思い
■つながり


1. ストレッチ
ストレッチは高い目標や課題に取り組む姿勢のこと。これだけだと当たり前に感じられるが、ストレッチするために「土台」を作ることの重要性を指摘している。
確かに一段高い課題に取り組むためにはそれに見合うだけの前提としての知識や理解、スキルがなければならない。下積み的な仕事は地味でつらいものも多いが、こうした仕事がより高度な仕事をするための基礎、土台になるのは事実。
自分の再保険の仕事でも一つ一つの案件をこなすのはかなり地味で味気ない作業も多いが、数多く、そして様々な種類のケースを扱うことを通して得られる「身体感覚」は確かにあると思う。こうした地道な仕事で得られる「土台作り」を軽視しないようにしたいと思う。
こうした土台作りで得られた実力が、周囲の信頼を生み、次のストレッチのチャンスを呼び込むきっかけになるというのもよく分かる。


2. リフレクション
リフレクションによって自分の経験から教訓を引き出し、学びを得ることができる。
自分のやっていることについて意識的に「振り返り」をしているかというと確かに怪しい。失敗から学べず、同じ失敗を繰り返すことも少なくない。
やはり重要なことはどんなに忙しくても、振り返りのチャンスを持つことだと思う。
これはチームとしても同様だと思う。PDCAサイクルを回す、と言いながらPDで終わってしまうことも少なくない。
リフレクションをする方法として「他者からのフィードバック」「批判にオープンになる」を挙げていることも見逃せない。フィードバックを受けたり、耳に痛い指摘を受けることは心理的にしんどいので、こうした機会を避けがちになってしまう。
しかし、本当は周りにどう思われているのか、を知らないでいることは客観的な評価と自己評価に大きな乖離を生むことになりかねない。そして大きな成長のチャンスを自らつぶすことになる。
恐れずに、人にフィードバックを求めること。
周囲の意見に謙虚に耳を傾けること。


3. エンジョイメント
仕事自体にやりがいを持ち、楽しんでやれることが大事、ということはよく分かるが、なかなかそのような境地に達することができない、というのも自分の正直な心境。
そんな未熟な自分に「エンジョイメント」の項は大きな示唆を与えてくれる。
自分の仕事に対する「意味の発見」が仕事のやりがいを高める、というのは自分がなかなか持つことのできなかった視点だと思う。
自分の仕事にも、分析力、提案力、問題解決力、交渉力、マネジメント力、いろいろな能力を鍛え、高める要素がたくさんある。こうした点をもっとポジティブに捉え、エンジョイメントの境地に達したいと思う。


4.「経験から学ぶ力」のドライバーとしての「思い」
「自分への思い」と「他者への思い」が融合したところに成長がある、というのはリーダーシップについての他の本で読んだ「自分のために生きることが人のためになる」ということと似ていると思う。
これは「志」のことなのだろう。
「他者のため」という点が自分はやはり弱いと思う。ここは自分の行動を大きく変えなければならない点だと思う。


5.「経験から学ぶ力」のドライバーとしての「つながる力」
人は他人を通してしか自分を見ることができない、というのは事実だと思う。思えば自分がこれまでの人生の中で変わってきたとすれば、それはほとんどの場合他人からの影響を受けてのことだった。
自分には真似のできないような情熱を持って物事に取り組んでいる人。
自分にはない価値観を持つ人。
自分にはない行動力を持つ人。
自分と違う人たちと会うからこそ、自分は変わりたいと思う。成長したいと思う。
そういう意味でこの「つながる力」はとても重要だと思う。
他の人に刺激を受け、切磋琢磨すること。
自分が安住できる環境ではなく、自分に危機感を持たせ、もっと高みへと到達したいと思わせてくれる人の存在は本当に重要だ。
そんな場に自分を置くこと。
そうしたつながりを自ら求めることが「つながる力」なのだと思う。



それにしても「経験から成長する力」のフレームワークは本当に秀逸だ。自分を客観視するには本当に優れたツールだと思う。
この本を読んで思うことは本当に多い。とくに「つながる力」は今の自分の現状を直視するに、とても複雑な思いになった。もう一度、歩みは遅くてもやり直したいと思う。

「経験学習」入門

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