IDEA HACKS! 2.0 「場」への与贈を通して豊かになる

小山龍介さんと原尻淳一さんの著作「Idea Hacks!」の続編。
前作との大きな違いは「方法から場へ」という全体に通底するテーマがあること。
どちらかというとスキル重視と思われたこれまでのHacksシリーズと矛盾するようでもあるが、今回「はじめに」で著者が『持っているスキルと仕事の成功に、因果関係はない」とはっきりと宣言している。これは結構大きな驚きだった。
ここで著者が「場」と呼んでいるのは、職場だったりコミュニティだったり、あるいは広く社会だったりするのだが、場への貢献、場を豊かにすることによって、場からの報酬(幸せ)がもたらされるという相互循環的な働きがあるという。
この「場への貢献、与贈」と著者が呼ぶところの概念だが、はっと気づかされることがある。
これまで自分が所属する「場」への貢献、という視点で考えたことがあったのか?今まで自分はスキルを伸ばすことで人より少しでも抜きん出て、現状から脱却したいという視点でしか考えたことがなかったのではないか?
自分が「場」に対して何も貢献しなければ、「場」から返ってくることもない。
「場」を豊かにすることによって、結果的に自分も豊かになるという考えはとても腑に落ちるものがあった。
自分の中でもこの「場」への貢献、与贈は大きなテーマになりそうだ。

以下、気になったところについてコメントしていく。

◆プライベート・ライティング
思いついたことを人に読まれることを意識せず「手と脳を直結させて」アウトプットする手法。アウトプットの効率が劇的に上がるという。
この感想もあまり考えないで書いてみることを試しているが、続けることでアウトプットに変化が出てくるか試してみたい。


◆与贈循環
自分の持っている時間を場に「与贈」することによって、場が豊かになり、豊かになった場からまた与増される。 場が豊かになるサイクルを作るという考えだという。
この考えは、自分が最近読んできたファシリテーションについての考えと似ていると思う。
ファシリテーションはそもそも「人と人の相互作用(関係性)を促進する」働きであり、会社やコミュニティにおける「社会関係資本」、人と人との関係性を高め、より高い価値を創出することを目的にするものと理解している。
社会関係資本を増やす」=「場が豊かになる」ということだとすれば、「場」の構成員の信頼や相互理解を深め、自律性や思考・行動の質が高くなっていくことはいずれ「成長」という個人への報酬として返ってくる。
こうした理解を基にして自分の所属する会社、コミュニティに関われば、自分がそこで何をすべきなのか、感じること、考えることが変わり、自ずと行動も変わってくるように思う。

僕が今自分の会社に「与贈」できることって何だろう?

関係性を高めるイベントを企画する
飲み会の設定
オフサイトミーティング
他部門との飲み会
食事に行く
イベント
自分たちが目指す方向性、ビジョンを語り、共有するミーティングを開く
ビジョン・ミーティングを開く
自分の知識、理解を形式知化し、共有する
勉強会の開催
ニュース×勉強会
再保険保険業界ニュース
海運業界ニュース何が起こっているのか調べ、共有する
イデア会議
営業の勉強

スキーマ獲得
スキーマ」とは情報を認知する時の思考の枠組みのこと。
世の中がどのように見えるか、スキーマによって変わってくるため、より豊かなスキーマを獲得できればより適切に事象を認知し、豊かな人生を楽しむことができる。
スキーマは丸暗記できるようなものではなく、バラバラの情報が有機的につながってできた知性であり、スキーマ=アート、センスのようなもの

◆アート/センス学習法
スキーマを確認するためにアウトプット する
「自分のセンスを確認するにはアウトプットするしかない」というのは確かにそうだと思う。
下手な文章でも書いてアウトプットしない限り、他者と比較することもできないし、文章のセンスがあるかどうかも分からない。
仕事も同じことだろう。

②自分と他人のアウトプットの比較によりスキーマを増やして行く
他の優れたアウトプットを見る
自分と他人のアウトプットを比較することによってスキーマを増やして行く
フィードバックを受ける
これは確かに辛い作業だが、自分のセンスのなさ加減、スキーマの乏しさを感じることでしか、自己認識はできないし成長することはできないということだと思う。

③一度経験したら忘れないアハ!体験を繰り返す
これまで思いつきもしなかった驚くべきアウトプットに出会うこと「アハ!体験」によってスキーマが大きく変化する。そのためには経験が必要。

スキーマ獲得に有効な異文化体験
経験によってスキーマを獲得し、それが知識にとどまらない知性として働くことによって、新しい目で物事を眺めることができる。
これは自分も留学した時に身をもって経験したこと。日本人の常識は世界の常識ではない。彼我の差を感じることによって学ぶことは大きい。
例えば自分がいたサンディエゴの人々の明るさ、寛容さ、人なつこさは最初の頃どうにも馴染めなかったり理解しがたいことだったが、小さなことにこだわらない、クヨクヨしないこと、自分を理解してもらおうとするだけでなく、違いを前提に他者を理解しよう、という人生に対する姿勢を学ぶことができたと思う。
このように違いを通して自分を認識することが


◆心の中の「いいね!」ボタンを押す: 「なるほど!」を口癖にする
どんな想定外のことが起こってもそこから学べることがあるということで、起こっている事象について素直に受け容れ、そこから学ぶという姿勢のことだと思う。これにはスキーマ拡張効果があるという。
自分一人の認識や思考の枠組みには所詮限界があり、考えてもいなかったこと、自分には理解できないようなことは必ず起こる。そこから何を学ぶかによって、その後の人生の豊かさが変わってくるということだろう。

◆明るい標準レンズのカメラを持ち歩く
「カメラを始めたい」・・・というのはここ数年思ってきたが現実化せず。来年こそ実行に移し、ぜひ試してみたい。

◆二つの分野でプロフェッショナルになる
切り口を二つ持つことで、物事が立体的に見えてくるという。
自分も今まで学んだことや、学んでいることでものの見方が変わるだろうか?例えばグロービスで学んだリーダーシップやHRM。今学ぼうとしているファシリテーションコーチング。

◆外部環境とシステムの相互乗り入れの「場」を設定
「複雑な環境に対応することのできるシステムとは、それと同じだけ複雑なシステムである」
人をシステムに例えれば、複雑な環境に対応できるのはそれと同じだけ複雑な知性だという。これは本当にその通りだと思う。環境がどんどん変わる。経済のグローバル化、ICTの進展によりこれまででは考えられない勢いで社会は変化し、複雑化している。その中で人間が既存の価値観や考え方で対処できるはずもない。複雑さに対応する柔軟な知性、理解力が必要というのはその通りと思う。
「想定外」という言葉で一線を引くことはいかに世の中や物事をあるがままに見ていないか、ということの証左だと著者は言う。曇りなき目で物事を見ることができる姿勢を得るために、多様なスキーマが必要ということだと思う。

◆身体の拡張とアイデアの発芽
「ほんとうにみんなは、学問といえば、ひとが書いたもの読むことだと思っている。」
「なせ自分のオリジナルの観察を大事にしないのか。」
与えられたもの、既存のものについて評価するというような姿勢ではなく、自分が本当に興味を抱いたものについて知りたいという探究心に根付いたものこそに学習意欲が生まれ、発見があり、新しいアイデアが生まれる。
そうだとしたら、自分の興味って何だろう?

・楽しく、イキイキと仕事をできる環境ってなんだろう?
・自分が生きがいを感じながら、仕事に打ち込めるような環境はどうやったら作れるだろう?
・人に与えられるだけじゃなく、自分がこの「場」に与えることは何だろう?
・明るくて、思わず意見を会いたくなる、みんなの意見を聞きたくなるようなミーティング、会議はどうやったらできるだろう。
そうした場づくりに貢献してみたい。

◆コンテキスト思考
人々の関係性によって生まれるコンテキストは、エスノグラフィーのように中に入り込まないとよく見えてこない。個人の考え、ニーズだけでなく、社会的な背景、人間関係がコンテキストとして人の行動に影響している。
そうしたコンテキストを理解しなければ、ものごとの本当の意味は分からない。


スキーマをコンテキストとして活用
スキーマをコンテキストとして活用することによって、新しいアイデアが生まれる。

スキーマを獲得
スキーマをコンテキストとして活用
③アイデアが生まれる

多様なスキーマが重要であり、そのために、チーム全体の力を借りることも大切。
多様なスキーマ、コンテキストを持つことがアイデアを生み出す源泉になる。


◆第三レベルの傾聴
第一レベル:内的傾聴
第二レベル:集中的傾聴
第三レベル:全方位的傾聴
その場も含めて感じ取るような聞き方
相手は「受け入れてもらっている」と感じる
相手の雰囲気からもニュアンスを感じられる
イデアの別の側面に気づくことができる

これはファシリテーションコーチングにつながる考え方。相手に対して心を開き、安心感を持って話をしてもらう環境づくりをすることにより、より微妙なニュアンスや多面的な考え方、フィードバックを得られるということだと思う。

今回の著書はいわゆる「スキルアップ」本ではない。「場」という概念を一つの大きなテーマにして、それをどう豊かにするか、ひいては社会を、日本をどう豊かにしていくかも考えることのきっかけになるような、、パラダイムシフトを引き起こすような内容をもつ素晴らしい本だと思った。

IDEA HACKS!2.0

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